チック症は、思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声を特徴とする発達障害の一つです。幼少期に発症することが多いと考えられていますが、大人になってからも新たに発症する場合や、幼少期からの継続が見られることもあります。
今回は、大人のチック症の原因や症状や生活への影響とそれに対する対処法について解説します。また、就労支援サービスや障害福祉支援サービスを活用する方法も併せて紹介します。チック症をお持ちの方や、周囲の人々が理解とサポートを得るための参考になれば幸いです。
チック症とは?
チック症とは、自分の意思とは裏腹に思わず起こってしまう、素早い身体の動きや発声を特徴とする疾患です。これらの動きや音は、日常的な活動や会話の中では自然に行われないもので、突然発生し、通常は自分で制御することが難しいと感じることが多いです。
チック症は子供の頃に始まることが多いですが、成人に至るまで続くこともあります。症状には一過性のものもあれば、長期間続くものもあり、その発症の仕方や重症度は個人によって異なります。
引用元
チック症・トゥレット症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
チックで現れる症状
チック症の主な症状は、突然発生し、繰り返される身体の動きや発声として分類されます。ここからは、チック症でどんな症状が現れるのか、詳しく見ていきましょう。
引用元
チック症・トゥレット症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
音声チック
音声チックは、チック症のひとつで、発声を伴う症状を指します。単純性と複雑性の二つのカテゴリに分けられます。
単純性音声チックでは、せきばらいや鼻をすする、奇声を発するなど、短い発声が特徴です。単純性音声チックはほとんどの場合が意味のない単純な音声であり、頻繁に繰り返されることがあります。
複雑性音声チックでは、特定の単語やフレーズを繰り返す症状が見られます。例えば、周囲の人や自身が言った言葉の尾を繰り返す同語反復や、不快な罵声・汚言を発することがあります。これらの音声は社会的に受け入れにくい場合もあり、特に問題となることが多いです。
運動チック
運動チックは、身体の動きを伴う症状を指します。音声チックと同様に、単純性と複雑性があります。
単純性運動チックは、まばたき、首を急速に振る、肩をすくめる、顔をしかめるなどの顔や首の周辺の動きが多いです。短時間で繰り返されることが多く、日常生活の中で頻繁に確認できます。
複雑性運動チックは、飛んだり跳ねたりするなど、身体の色々な部分の動きが出るチックです。例えば、頭を回しながら肩をすくめたり、人や物に触ったり、ときには自分を叩くなどの動きも含まれます。
単純性運動チックの組み合わせや、より複雑なパターンを示すこともあります。
運動チックも音声チックと同様に、チックの衝動が強いときに発生し、自分自身では抑制することが難しいでしょう。
トゥレット症候群
トゥレット症候群は、音声チックと運動チックの両方が1年以上にわたって見られる症状を指します。
この症候群は神経発達症の一種とされており、小児期に発症することが多いです。発症年齢は一般的に4〜11歳で、特に7歳前後に最もよく認められると言われています。
症状は10〜12歳頃に最も強くなり、成人になると改善することが多いですが、成人期になっても強い症状が持続する場合や、成人期になってから悪化する場合もあります。
また、トゥレット症候群には、強迫症、注意欠如・多動症、睡眠障害、学習障害、自閉スペクトラム症などが併存することも。これらの併存症は、患者の生活に大きな影響を与えることがあります。
トゥレット症候群は体質的な疾患であり、脳の働き方の違いによって起こるものです。正しい理解と支援が重要であり、患者の生活の質を向上させるために、家族や教師、医療従事者などの協力が求められます。
大人のチック症の原因
チック症の原因は、完全には解明されていません。ただし、いくつかの要因が考えられています。
現在では、脳内の神経伝達物質、特にドーパミンの過活動が関与しているとされています。また、遺伝的要因も重要です。さらにストレスや心理的な影響も症状に関与し、緊張状態や特定の状況で症状が悪化することもあるでしょう。
このような要因の他にも、ホルモンバランスや生活環境の変化、他の病気や薬の副作用など、さまざまな要因が複雑に絡み合い、チック症の原因となるとされています。
トゥレット症候群の合併症
トゥレット症候群は、単独で発症することが多いですが、他の精神健康障害や神経発達障害と併存することが頻繁に観察されます。トゥレット症候群とよく合併する症状について、見ていきましょう。
強迫症・強迫性障害
強迫症・強迫性障害は、トゥレット症候群と合併する症状の一つです。この障害は、ネガティブな考えや不安が思考を支配し、どれだけ理屈であり得ないと自分自身に言い聞かせても、その思考を止めたり追い払ったりすることができなくなる特徴があります。
強迫性障害のお持ちの方は、不潔恐怖、確認行為、儀式行為、数字に対するこだわり、物の配置に対するこだわり、加害恐怖などさまざまな強迫観念と強迫行為を経験することがあります。これらの症状は、日常生活や職場での業務に大きな支障をきたすことが多く、適切な治療とサポートが必要です。
注意欠如・多動症、注意欠如・多動性障害(ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)も、トゥレット症候群と合併する神経発達障害です。ADHDは、注意力の欠如、多動性、衝動性の三つの主要な症状を特徴とします。
注意力の欠如は、細部に注意を払うことが難しく、作業や活動に集中することが困難なことがしばしばあります。多動性は、静かに座ることが難しく、常に動き回ったり、不安定な状態にあったりします。衝動性は、他人の話を遮ったり、待ちきれない態度を取ったりすることが多いです。
引用元
ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
大人のチック症の治療法
大人のチック症の治療には、複数のアプローチが取り入れられます。ここからは、主な治療方法について見ていきましょう。
引用元
チック症・トゥレット症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
心理教育および環境調整
心理教育および環境調整は、チック症の本人や家族、職場などの周りの人々の理解を促すことを目的とします。環境調整では、ストレスが少ない環境を作る工夫が重要です。
具体的には、チック症を直接的に指摘しない配慮、症状が悪化したときに退避できる場所を用意するなどです。これにより、症状の悪化を防ぎ、日常生活や職場での業務に支障をきたすことが少なくなります。
認知行動療法
認知行動療法は、チック症の症状を引き起こす考え方や行動の癖を変更することを目指します。特に、ハビットリバーサル(CBIT)が有効とされています。
この療法には、アウェアネストレーニング(チックが起こる前の感覚に気付く練習)と、拮抗反応トレーニング(拮抗反応を使用しチックをコントロールする練習)が含まれます。さらに、保護者や家族からのサポートも重要です。
引用元
認知行動療法(ハビットリバーサル/CBIT・ERP・呼吸法) - トゥレット当事者会
薬物療法
薬物療法は、環境調整や認知行動療法で症状が軽減しない重症の場合に有効です。症状などによって異なる薬を用いますが、特に統合失調症の薬が有効とされています。
これらの薬物は、チックに伴う不安感や多動性にも効果が見られ、生活に問題とならない程度に症状を抑えることを目的として処方されます。
大人のチック症の困りごと
大人のチック症は、日常生活や職場において多くの困りごとを引き起こす可能性があります。どんな困りごとがあるのか、具体的に見ていきましょう。
物を壊したり怪我をしたりしてしまう
チック症による突然の身体の動きで手足を思うように動かせず、物にぶつかったり、落としたりすることが頻繁に起こる可能性があります。
例えば、急に首を振ったり、肩をすくめたりする動きが原因で、周りの物を壊したり、自分自身が怪我をしたりすることがあるでしょう。
公共の場所や職場などで静かにできない
公共の場所や職場では、静かにすることが求められる状況が多くあります。しかし、チック症のため、声が出てしまったり、突然の動きが出てしまうと、周囲の人々から奇異の目や不快感を与えかねません。
例えば、電車やバスの中で突然の声が出てしまったり、会議中など静かにしないといけない場所でチックが発生すると、周囲の人からうるさいと言われたり、困惑されたりすることがあります。
表情や言葉で誤解を与えてしまい人間関係が築けない
チック症の症状は、表情や言葉を通じて誤解を与えることが多く、人間関係を築くのに大きな障害となってしまうでしょう。
例えば、しかめ面をしたり、睨み付けたりする動きが原因で、他人から怒っているように見られてしまうかもしれません。また、汚い言葉や乱暴な言葉が出てしまうことで、他人とのコミュニケーションが難しくなり、友人や同僚との関係がうまく築けないリスクが高いです。
孤独感や社会的排除感を感じ、さらに職場での人間関係も悪化してしまい、キャリアアップや社会参加が困難になってしまうことも考えられます。
チック症をお持ちの方が生活の中でできる対処法
チック症をお持ちの方は、ご自身でできる対処法を取り入れることで、症状の管理と生活の質の向上を図ることができます。どんな対処法があるのか、見ていきましょう。
周囲に特性を説明して理解を得る
周囲の理解や配慮を得るには、自分からも特性を説明することが重要です。手足の動きや表情、言葉といった言動が自分の意志ではないことを理解してもらうことで、誤解や不快感を避けることができるでしょう。
特に、職場や学校などの公共の場では、事前に周囲の人々に説明することで、ストレスを減らし、よりスムーズなコミュニケーションを図ることができます。また、家族や友人にも説明することで、よりサポートを得られます。
休む時間や場所を確保する
疲労やストレスは、チック症の症状を悪化させる主要な要因の一つです。 そのため、ゆっくりと休む時間や一人でリラックスできる場所を確保することが重要です。
例えば、日常的に短時間の休憩を取り入れたり、週末にリラックスできる時間を設けることで、身体と精神の疲労を軽減することができます。
障害福祉支援サービスを利用する
チック症やトゥレット症候群は発達障害の一種とされており、程度によっては障害者手帳の発行や障害福祉支援サービスの対象になることがあります。適切にこれらのサービスを利用することで、生活の質を向上させることができるでしょう。
例えば、障害者手帳を取得することで、公共交通機関の割引や医療費の軽減など、さまざまな支援が提供されます。また、障害福祉支援サービスを利用することで、専門的なサポートやリハビリテーションプログラムを受けることができ、症状の管理と社会参加を促進することも可能です。
大人のチック症をお持ちの方が利用できる就労支援サービス
ここからは、大人のチック症をお持ちの方が転職活動をする際に、相談に乗って支援してくれるサービスを紹介していきます。
ハローワーク
ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。
ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。
一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。
センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。
障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。
引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。
利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。
全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。
なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。
障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。
引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省
障害者向け転職エージェント
障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。
障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。
高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。
就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。
チック症は発達障害の一つ。困ったときは障害福祉支援サービスに相談してみよう
チック症は、思わず起こる身体の動きや発声を特徴とする発達障害の一種で、日常生活や仕事に困難を伴うことがあります。しかし、障害福祉支援サービスを利用することで、生活の質を向上させることが可能です。
障害者手帳の取得や障害者雇用枠の利用ができ、ハローワークや地域障害者職業センターで職業リハビリテーションや就職支援を受けられるため、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
また、障害者枠で就労の意志をお持ちの方に利用いただける、転職エージェントを活用することで、就職活動をスムーズに進めることができます。
DIエージェントは、障害者手帳を既に取得している方から、取得申請中・検討中の方も利用可能で、ご利用者様に寄り添ったサポートを提供しています。専門的な支援を受けながら、自分に最適な職場を見つけることができ、より安心して転職活動を進められます。ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
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・障害を持ちながら生活収入を確保する方法について解説しています。以下の記事も併せて ご覧ください。
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大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。