うつ病で障害者手帳を取得できるか気になる方も多いのではないでしょうか。実は、取得することは可能です。そこで、どのように判定されるのかという基準や取得の流れについて解説します。
また、障害者手帳以外に利用できる制度や、転職する場合に仕事探しを支援してくれるサービスについてもお伝えするので、今後の生活の参考として役立てていただければ幸いです。
うつ病の方は障害者手帳を取得できる?
障害者手帳とは、病気やけがなどで一定の障害があることを公的に証明する手帳です。身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳の3種類があり、うつ病では精神障害者保健福祉手帳を取得できる可能性があります。
精神障害者保健福祉手帳の対象疾患には、うつ病や躁うつ病(双極性障害)のような気分障害のほかに、統合失調症・てんかん・発達障害などがあり、症状の程度に応じて1~3級の等級に分けられることが特徴です。等級についての詳細は次章で解説します。
引用元
精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について|厚生労働省
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うつ病で精神障害者保健福祉手帳を取得するときの審査基準
精神障害者保健福祉手帳は、障害の度合いによって1~3級の等級に分けられることを前述しました。
1級は精神障害により日常生活で何かをするのが不可能な状態が見られる程度、2級は精神障害で日常生活に著しい困難が見られる程度、3級は精神障害で生活に制限が見受けられる程度とされています。
では、うつ病を含む「気分障害」では、どのような基準で等級が判定されるかを見ていきましょう。
引用元
精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について|厚生労働省
精神疾患(機能障害)の状態
まず、精神疾患の状態における基準です。
1級は、気分・行動・思考などの面で高度の障害の時期(病相期)が見られ、持続したりたびたび起きたりする状態とされています。2級は、1級ほど高度ではありませんが病相期があり、持続や頻発が見られる状態。3級は病相期がひどくはないが、持続したり頻発したりする状態です。
能力障害(活動制限)の状態
つづいて、能力障害の状態における基準です。
1級は、バランスのよい適切な食事が困難・入浴や着替えなどの清潔維持ができない・意思疎通が困難で対人関係がうまくいかないなどの8つの基準のうちいくつかに該当する状態とされています。
2級は、1級と同様の基準を他社の援助なしには行えない状態が複数該当する場合。3級は、各基準の内容を「自発的に行えるものの援助が必要」という状態が複数該当する場合です。
うつ病で精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット
うつ病の方が精神障害者保健福祉手帳を取得するとさまざまなメリットがあります。どんな点なのかを見ていきましょう。
1. 各種税金の控除を受けられる
障害者の方には、所得税や住民税などの控除があります。たとえば、所得税は27万円の控除を受けることが可能です。
また、お住まいの地域によって内容などが異なる可能性がありますが、精神障害者保健福祉手帳1級の方の場合、自動車税の減免も受けられます。担当窓口に問い合わせてみてください。
引用元
障害者と税|国税庁
No.1160 障害者控除|国税庁
自動車税環境性能割・自動車税種別割の減免制度のご案内|東京都主税局
身体障害者等に対する自動車税の減免|鹿児島県
障害者手帳をお持ちの方ヘ~自動車税(環境性能割・種別割)の減免制度~|長野県
2. 運賃や施設の入場料などの割引がある
バスや電車のような公共交通機関の運賃・美術館などの施設の入場料・携帯電話の料金などの割引や免除を受けられることもあります。特に運賃は、通院や移動の際に交通機関をよく利用する方にとって助かるでしょう。
自治体ごとに独自のサービスが用意されているケースもあり、自家用車をお持ちの方に嬉しいガソリン代の補助や、スムーズな移動に便利なタクシーのチケットの交付などを受けられる可能性があります。
3. 障害者雇用枠に応募できる
うつ病の既往歴があっても、社会で活躍している方は多数いらっしゃいます。「うつ病になったからもう働けない」と諦める必要はありません。
実は、障害者手帳を持っていると、障害者枠で就労できる可能性があります。通勤や通院への配慮・勤務先での環境整備・労働時間の考慮など、症状に応じた合理的配慮を受けながら働けることがメリットです。
精神障害者保健福祉手帳を所持することの注意点
障害者手帳を持つことにマイナス点はあるのでしょうか。前章のメリットとあわせて、以下のような点を押さえておきましょう。
- 手帳の発行自体は無料だが、診断や治療のための医療費がかかる
- 申請してから交付されるまでに時間がかかる
- 2年に1度の更新が必要
- 生命保険や住宅ローンの契約ができないケースがある
しかし、手帳を持っていることを自然に知られてしまうことはありません。「周りに障害者手帳の所持を知られたくない」と心配している方は、それほど恐れなくてよいでしょう。
うつ病の方が精神障害者保健福祉手帳を取得する方法
ここからは、障害者手帳を取得するまでの流れや申請時に必要な書類について解説していきます。
手続きの流れ
取得までの手続きは、下記のような流れです。
- 自治体の窓口で申請用紙をもらう
- 主治医に診断書を書いてもらう
- 申請書や診断書など必要なものを揃えて自治体に提出
- 審査が行われて手帳が交付される
取得までの期間
まず、うつ病で受診した初診日から6ヶ月以上経過していなければ、障害者手帳の交付申請ができません。通院を始めたばかりの方は、半年経ってから申請を行ってください。
また、申請してから発行されるまでにも時間がかかり、1~4ヶ月ほど要することがあります。「手帳所持者向けのサービスをすぐに受けたい」というときに申請しても、間に合わない可能性が高いでしょう。
必要な書類
申請時に主に必要なのは、申請書・診断書・顔写真・マイナンバーがわかる身分証明書です。その他のものは自治体によって異なることがあるため、申請用紙をもらう際に窓口で確認しましょう。また、更新の際は今持っている手帳も持参してください。
うつ病の方が障害者手帳以外に受けられる可能性のある支援や制度
うつ病の方は障害者手帳のほかにも支援などを受けられる可能性があります。どんな制度があるのかを見ていきましょう。
自立支援医療
自立支援医療とは、うつ病で医療機関を受診する際の医療費の負担を減らせる制度です。通常3割の自己負担が1割に軽減され、月の上限額に達するとそれ以後の月内医療費は無料になります。
利用を希望する場合は、障害者手帳と同じく申請が必要で、受給者証を交付してもらわなければなりません。また、上限額は世帯の経済状況などによって異なるため、役所の窓口に問い合わせてみてください。
障害年金
うつ病での初診日に年金に加入しており、きちんと納付し続けている方であれば、症状の度合いによって障害年金を受給できる可能性もあります。うつ病によって短時間労働しかできず収入が少ない、または働くことが難しいという方は、ぜひ活用してください。
生活保護
働くことが難しく生活に困窮する場合、生活保護という手段もあります。健康で文化的な最低限度の生活を送るために国が保障してくれる制度なので、状況に応じて検討してみてはいかがでしょうか。
障害者雇用
メリットでも言及しましたが、うつ病で障害者手帳を持っていれば障害者雇用枠で働ける可能性があります。
うつ病ではなかった頃と比べて、働く際に困難を感じる場面も多いことでしょう。そこで、職場により働きやすい環境を整えてもらうことにより、社会復帰ができて収入も得られます。
前職を辞めたのちに症状が落ち着いて働ける状態になった場合や、働く意欲はあっても今の仕事を続けるのが難しい場合は検討してみましょう。
うつ病の方の再就職・転職を支援してくれる機関
うつ病で障害者手帳を取得したり、休職や退職をしたりする方も多いです。しかし、体調が落ち着いてくるとまた働く意欲が湧く方もいることでしょう。再就職や転職の際は、相談に乗ってくれ、活動をサポートしてくれるサービスがあるので利用してみましょう。
ハローワーク
ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。
ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。
一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。
センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。
障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。
引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。
利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。
全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。
なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。
障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。
引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省
障害者向け転職エージェント
障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。
障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。
高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。
就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。
うつ病の方は必要な支援を受けながら療養に努めよう
うつ病の方は障害者手帳を取得できる可能性があります。手帳を取得すると特に経済面でのメリットが多いので、取得を検討してみてはいかがでしょうか。また、ほかにも活用できる制度があるので自治体の窓口などで相談してみましょう。
なお、うつ病後の転職の際は、支援機関を利用しながら自分に合った職場を探すのがおすすめです。
障害をお持ちの方向けの就職・転職支援を行っている「DIエージェント」では、専任のキャリアアドバイザーが仕事をお探しの方のお話を伺いながら、これまでのご経験やご本人の希望に合う求人のご提案や、求職活動のサポートなどを実施しています。
転職はまだ検討段階という方も、まずはお気軽にご相談ください。
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大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。